証言・昭和の俳句
(信濃毎日新聞2002年5月23日朝刊掲載)
俳句総合誌「俳句」(角川書店)では、五月号で「昭和俳句を見直す」との大特集を組んでいる。昭和二十七年に創刊され、つねに戦後俳句とともにあった「俳句」は、次号六月号で創刊満五十年となる。
そんなおりしも、『証言・昭和の俳句』(上・下)が出版された。本書は黒田杏子氏のインタビュー構成によって、同誌に平成十一年一月号から翌年六月号までの一年半にわたって連載されたもので、激動の昭和を駆け抜けてきた十三人の俳句作家たちの実体験に基づくエピソードが肉声で語られている。
収録作家は金子兜太・桂信子・鈴木六林男・佐藤鬼房・中村苑子・三橋敏雄・古沢太穂・沢木欣一・津田清子・成田千空・草間時彦・深見けん二・古舘曹人の各氏。それらの作家たちに向かい、聞き手の黒田杏子氏は、まさしく全身全霊で取材にあたっている。
たとえば金子兜太の章だけでも、生きた昭和俳句を語るのに十分な内容である。まだ十台の頃の「成層圏」での竹下しづの女との出合い。加藤楸邨との出合い、同門の沢木欣一・森澄雄らのこと。若い兜太が見る等身大の中村草田男、その後の草田男との論争。そして「第二芸術」論、現代俳句協会の分裂等々…。
さらに三橋敏雄・鈴木六林男が語る西東三鬼、京大俳句事件。その事件に絡む三鬼の名誉回復裁判の舞台裏…。当時者しか語れない事実が、証言者みずからの声で語られている。
いっぽう同時代を生きた女流・桂信子の生きざまもまた、ドラマに満ちている。大空襲で家が焼けてゆく中で、とっさに懐に入れて逃げた、のちの『月光抄』の句稿。
すでに証言者十三人のうち五人は鬼籍に入り、「証言」は「遺言」となってしまった。
「生きた昭和俳句史」を知るために、俳人のみならず、歌人の方にもぜひ読んでいただきたい一書である。
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