「鈴木真砂女全句集」――あしたもこの夢

 

 

 羅や人悲します恋をして  『生簀籠』

 今生のいまが倖せ衣被   『都鳥』

 

 鈴木真砂女の句といえば、まず、これらの句を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。真砂女さんの句は、平明な言葉を用いながら訴えかけてくる深い心の表出がある。

 今年九十五歳になる真砂女さんの、そのドラマティックな人生については、今更語る必要もないだろう。本書は『生簀籠』(30)『卯浪』(36)『夏帯』(44)『夕蛍』(51)『居待月』(61)『都鳥』(平6)『紫木蓮』(10)の七句集を収録。『卯浪』以降はすべて編年体で編まれており、私たちは昭和二十九年から平成十年までの四十四年間にわたる真砂女さんの生活や心のありようを、年毎に窺い知ることができるのである。

 久保田万太郎は、『卯浪』の序の中で、真砂女俳句を次のように解説している。(以下要約)

「真砂女の句集は、内容的にこれを三つに分けることができる。すなわち、

 ゆく春や身に倖せの割烹着

のような、小料理屋「卯波」の女主人としての彼女のすがた。

 ふるさとや枯野の道に海女と逢ふ

ような、外房鴨川の荒海の音を聞きつつ育った彼女のすがた。

 すみれ野に罪あるごとく来て二人

 そして、つねに人の情けに縋りつづける一人の女人のすがた」である。万太郎が初期句集で指摘した真砂女俳句の柱は、その後も変わることなく現在まで貫かれている。

 真砂女さんの季語の扱い方には高い評価があるが、全句集中いちばん多いのは「蛍」の句。

 

 死なうかと囁かれしは蛍の夜  『都鳥』

 蛍の死や三寸の籠の中     『居待月』

 蛍籠さびしきままに眠るべし  『夕螢』

 

 つねに自分を奮い立たせ、気丈に生きてきたからこそ、蛍のようなはかないのものに心魅かれたのだろうか。蛍はまた、和泉式部の昔から燃ゆる恋の魂だった。

 人はなぜ、真砂女俳句にこんなにも惹かれるのだろう。真砂女さんの言葉を借りて言えば、それは「本当の事」を語っているから。虚飾のない真実こそ、人の心を打つものはない。

 

 夏帯や一途といふは美しく   『夏帯』

 春の夢覚めてあしたもこの夢を 『紫木蓮』

 

                        (「俳句研究」2001年7月号掲載)


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