「盲目の俳句・短歌集 まなざし」
辺見じゅん・大森理恵編
――ものを見るということ
「たとえば、ある情景を視覚障害の友人に伝える時、私たちは、見たものをできるだけ詳しく伝えようとします。しかし、それが本当に正しい方法なのか」――冒頭からこの本は私たちに問いかける。
本書は、日本で三番目に古い点字図書館・北海図書館に昭和四十六年から平成十年までのあいだに寄せられた優秀作・俳句六〇八八句、短歌五四一六首から選ばれた、俳句短歌の作品集である。テーマ別六章に編集されており、俳句・短歌それぞれ三百句が収録されている。(俳句選・大森理恵/短歌選・辺見じゅん)
〈俳句〉見えぬ眼に目隠しをされ西瓜割り 山村 巌
頬で見る夕焼頬にまぶしくて 大谷展生
〈短歌〉点字器の定規の滑りよき今朝は
わが健やけき証と思う 村瀬 弘
雪解けを待ちつつブラシかけやれば
盲導犬の背に春陽あり 吉村 保
俳句を作る場合、私たちは、まず「ものをよく見ること」の大切さを教えられる。けれども「ものを見る」手段である視覚が奪われた場合、作者は何によって「もの」を捉えているのであろうか。ある俳句指導者の方の話で、視覚障害の方に俳句をお教えしたとき、気を遣って、ご本人が見えないであろう色彩などの話はなるべくしないようにしていたが、実際にはその必要もなく、かえって色彩豊かな作品に驚かされたという話を聞いたことがある。
掌に載せてくれたる蕗の薹 鈴木良平
掲句は、手に載せてもらった蕗の薹に焦点を絞って、作者の心の動きを表現している。蕗の薹の色、形が読み手に鮮やかに見えてくる作品である。
〈俳句〉ふくろふや来世は見る眼持ちて来よ
雨音の雪に変わりて点書閉ず 寺下一夫
大き目を入れて盲の雪達磨 大日方玲子
その果てを海に広げし花野かな 熊谷幸城
〈短歌〉底のなき空の便りか牡丹雪
てのひらに受け春を待ちおり 浜田弥五郎
触れられるものは余さず触れてきて
吊り革もつ手に青蕗匂う 今井幸一
「ものを見る」ということの意味を、改めて考えさせられる一書である。
(「炎環」2000年月号掲載)
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