「歴草」――時間と空間を超えて
中原道夫氏は非常に多彩な方である。広告代理店のアートディレクターから俳句に専業。俳句の仕事を精力的にこなすかたわら、あまたの装幀を手掛け、古美術を蒐集、みすから書画を描き個展もひらく……。
花筏黄泉に客引く舟だまり
中原道夫氏は一九五一年新潟生まれ。多摩美術大学卒業。八二年に「沖」に投句を始め、八四年に「沖」新人賞を受賞。九〇年に第一句集『蕩兒』により第13回俳人協会新人賞受賞。九四年には第二句集『顱頂』にて第33回俳人協会賞受賞。現在「銀化」主宰。本句集は『アルデンテ』『銀化』につづく第五句集となる。
縄跳の縄は弧となり世を離る
まぼろしは真葛が原を出て三日
六道の辻にて葛湯商はむ
『歴草』を繙いて感じることは、時間や空間を軽々と超えて遊ぶ、摩訶不思議な風景の存在である。作者のこころは現世と来世をさえ自由に往き来する。
前生も霜夜の猫を抱きすくめ
初旅の背もたれ過去に倒したる
前(さき)の世は笛でありしよ寒八ツ目
三途まで繋がつてゐる青き踏む
「言葉は面白い」と語る作者は言葉そのものとも戯れる。
水にゝ打ちて氷に身を窶す
誰にでも蹤いてゆくから月といふ
そうして氏のもつ不思議の世界は、俳諧の世界と繋がってゆくのである。
なりはひを何處に捨てよか春日桶
いきつけの處へ春の行くといふ
皮と餡べつべつに春惜しみけり
さて、氏は料理の腕前もプロ級であり、『食意地ーぬ日記』という著書をもつ。
狐憑白子を吸ふに唇尖る
春の闇したたり醤濃くなれる
縁側はたそかれやすき干鰈
TVに、雑誌に、新聞にとまさしく八面六臂の活躍をする作者が、次にはどんな句を発表されるのか、新たなる一句が楽しみである。
とじまりは月うつくしといひしのち
みまくりをいまあらたまのみづのおと
秋の草歴草を岐くるべく長ず
(「炎環」2000年4月号掲載)
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